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2008/03/13 (Thu) 「ヴァンプ*ヴァンプ」1/3

「ヴァンプ*ヴァンプ」1/3
 


 EXPLICIT!!!
 このおはなしには、大人の表現が含まれています。
 18歳未満の方は、続きを読まないで下さい。


 平次は、自分の身体を呪う。
 無二の親友の笑顔に、だだでさえ自分の気持ちを抑えてきたのに、その血が欲しいという、細胞の一つ一つが乾く肉の衝動までを、抱えてしまった自分を。
 
 平次の部屋は、バブル時代に建てられたマンションの最上階にある、ロフトの部屋だった。狭く変形した部屋に付加価値をつけようと、無理にロフトの設計にしたらしいのだが、今は古さと、ロフト自体の流行の廃れから、格安で借りた物件だった。角部屋で、壁の二面が大きなガラス張りの為、夏は暑く冬は寒く、家具も置きにくい部屋だったが、眺めが良いと言う事で、宴会にもってこいの、たまり場のようになっていた。
 夏休みのその日も、日が暮れてから、新一と別の大学の友人が、酒を持って押しかけてきていた。3人だから大丈夫だと思っていたのに、その友人は彼女からかかってきた電話で急に中座し、いきなり、二人になってしまった。
 ずっとそうなるのを避けてきたのに、夜の自分の部屋に、2人きり。どう空気を作って良いか考えている間に、今度は停電。連夜の暑さに送電を危ぶむ報道は、このところ、毎日のように聞いてはいた。
 しかしなぜ、このタイミングで。
 月明かりだけが、明るく、窓いっぱいに降り注ぐ。傷だらけのフローリングに、自分と、新一の影が落ちていた。
 ただでさえ息苦しいのに、よけいに息が、苦しくなる。

「いいぜ……」
「なんや?いきなり」
「いいから吸えよ……苦しいんだろ?」
「へっ……?」
「推理力では、おめーに肩を並べてるつもりだぜ?……昼間は陽が射す度に苦しそうにして……さっきから、わずかだが身体も震えてんじゃねーか……俺がそばにいて、分かんねえとでも思ってやがったのか……」
 普段通り明るくしたかったが、乾いた笑いしか、出なかった。
「俺もヴァンパイヤの病気に、感染したってゆうんか?……そ、そんな事、あらへんて……」
 新一は真剣な表情を返したかと思うと、つ、と近寄ってきた。そしてこちらの両肩を掴み、胸を重ねるように合わせると、確かめるような、射すような視線を、ごく間近から投げてくる。
「そんな事ねえって……?ホントに……?」
 新一の、髪の匂い。
 目の前には、その白い、首筋の稜線が。
「俺、おめーの、あのお母さんや、和葉ちゃんには敵わねえかもしんねーけど……でも、友達の中では、俺が一番おめーの事分かってるって……おめーに何かあったら、俺だけは解るって、思ってんだ……この病気に感染して血を吸わないでいると、麻薬の禁断症状のような苦しさを感じてるはず……違うなんて、言うな……ホントの事、言ってくれ……俺にだけは……」
 友として、最高の言葉。
 自分の首を差し出し、危険を冒してまで、真実を得ようとしてくれている。それを、受け止めようとして。
 でも、本当の真実は。
 ヴァンパイヤとして、その血が欲しいだけではない。
 それ以上に、彼が欲しい。
 その唇を吸い、身体を貫き、自分のものにしたい。
 その心も、身体も。
 こんな自分は、友人などではない。
 ヴァンパイヤに対してさえ変わらぬ友情に、値しない。
 元々、自分を抑えるのも、嘘をつき通すのにも、限界を感じていた。ましてこの身体で、その首を露わにされて、我慢出来るわけがない。
 彼を感染者にしてこの苦しみを与えるくらいなら、二度と会えない方を選ぶ。
 これは、ちょうど良い機会だったのかもしれない。
 新一の両肩に手をやり、自分に密着していた胸を、引きはがす。
 その胸に感じていた温かさを冷まして。
 手に感じていた彼の肩の感覚も、引き離して。
 やっとの事で平次は、友人に、笑顔を向けた。
「……わかった……降参や」
「はっと……り……?」
 平次は応えないまま、彼から最も距離を取れる、窓辺に行く。そして、笑った顔を作ってみて、新一には背を向けたまま、学校でノリ突っこみをする時のような明るい声を出す。
「ホンマに……昔から無茶なヤツやとは思てたけど、なんぼホンマの事確かめる為やゆうて、ヴァンパイヤて確信あるヤツに、首差し出してどないすんねん。俺の友情と意志の強さをかってくれてんのやろけど、コレは病気や。意志の強さなんて、関係あらへん。も少し俺の状態が悪かったら、訳わからんようになって、力づくでおまえを、やってもうたかもしれへん……解ってんのか?」
 大きく一つ、息。
「なんぼお前でも、ヴァンパイヤの俺の力に敵うわけあれへん……そうなったら、おまえも感染者になってまう……そやから俺、おまえとはもう、会わん事にするわ」
「なっ……服部?」
「おまえの友情と信頼裏切って悪いけど、俺は、お前が思うほど我慢強ないんや。お前が今したみたいに近くに来たら、絶対やってまう……こないな俺と友達でおってくれるお前を、こんな病気には、絶対、しとないんや……友達として……人として。元々、お前とは上手い事距離置いて付き合えへんようになってたから、これはええ機会や……それは……その理由はやな……」
 背後から、大股で近づく足音。音から怒りを感じる、大きな音。
 振り向くと、また彼に、引き寄せられた。
 さっきより、強い力。
 新一は、その体中をこちらに押しつけるようにして、抱きしめてくる。唇をこちらの首に触れそうなくらい、近づけて。
「くく、くど……っ?」
「ば……か……っ!!おめ……鈍すぎ……ぜんっぜん、解ってねえ……」
 自分のタガが跳ね跳んでしまいそうで、平次は新一を引き離そうと、手に力を込めた。しかし込めた力の分、相手から抵抗が返ってくる。ヴァンパイヤになった今、そんな力は簡単にはねつけられるのだが、その彼の本気を力ずくで跳ね返す事が出来ず、ただ、力を込めた。
「あ……ほ……っ、マジで、あかんねやって……解って?……く……どっ……」
「アホはどっちだ!俺は本気で、俺の血を吸って欲しいんだ……俺の身体で、おめーの渇きを潤せるなら……そして、おまえの辛さを解ってやれるなら……それで……だから……」
「あほ、なんぼ友達やゆうても、それはアカン!これがどんだけしんどいか、解ってんのか!血を吸わんでも生きられる言うたかて、吸わんと、恐っそろしい渇きと憔悴を味わう、人と居るだけで、ものすご忍耐が必要なんやぞ!?いったんうつったら、たぶん一生治らへんのに……自分からうつりたがるヤツがあるか!」
「解ってる!だから、おまえに血をあげたいんだ!共有してえんだ!その秘密も、苦しみも!俺がコナンだった時、おまえだけが解ってくれたように、俺だけが!……俺だけが解りたいし、お前を癒してえって……あの、和葉ちゃんに出来なくて、俺に出来る事があるなら、それだけでいいって……ああ……」
「かず……は……???」
 なぜ、その名前が。頭がパニくって、次の言葉を探しているところに、新一の手が頭や腰に巻き付いてきて、声が出なくなった。伝わってくる体温に、息が上がる。汗がにじむ。喉も口の中もカラカラで、くっつきそうだ。
 新一は引き寄せた頭と首筋に顔を埋ずめるようにして、小さく呻く。
「友達、友達って、連呼されると…………言うつもりなんてなかったのに……悪りぃ……おめーがヴァンパイヤになった事なんかより、俺のこの気持ちのが、よっぽど、聞かされて、退くよな……」
 どういう事だ。鼓動が、身体を打つ。息が苦しい。
「会うのが最後なら、それでいい。でも最後に、俺の血を飲んで欲しい。そして、俺の中におまえの血を混ぜて、残してってくれ。おまえの血でヴァンパイヤになれるなら……お前と同じ渇きで、お前をずっと感じていられるなら、会えなくなっても、それで……いいから……」
 新一は首を起こし、目を、間近に合わせる。
「そんな重いもの、おめーが独りで抱えてるの、ヤなんだ……そういう苦しみ、解るから……お前と共有してえんだ……俺に、それを許してくれるなら……」
 月光に照らされた顔。
 陶器のような肌。首筋には、微細な産毛が、光っている。
 煮えるような、猛烈な渇き。潤したい。自分が別の何かになってしまいそうな、ギリギリの感覚。
 それを上回る、もう一つの感情。
 平次は新一の両頬を、手で包むように、押さえた。




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